こーはいとー
英語の会見がカッコよかったのに意外
テニスの大阪なおみ選手が「うつ」を公表した。加えて、メディアの会見で適切に対応することが今までも苦痛だったといっている。ニュースで会見しているところを何度も見た。ユーモアを交えて、言葉を適切に選んで流暢に語っているのを見ると、とても会見を苦痛に思っていたとは思えない。
彼女が自身の「うつ」を公表したのは全仏オープンの最中のことだ。私はそのことを6月1日の午後の情報番組で知った。前日まで、試合後にメディアの会見に応じないことを大阪なおみ選手が通告して、実際に会見に応じなかったことについて、大会主催者側と揉めていた。私は「いったい何をそんなにこだわっているのだろうか」と大阪なおみ選手の言動を怪訝に思っていた。
そして、大会主催者側が罰金や失格処分もちらつかせて会見に応じるように圧力を強めると、大阪なおみ選手も「せいせいする」と発信、対立は決定的となった。この次はどういう展開が待っているのだろう、と固唾をのんで見守っていたところ、事態は大阪なおみ選手の棄権、「うつ」公表という急展開となった。
うつ状態を経験した私が思うこと
私は数年前、会社にいけなくなる経験をした。その時最も辛かったのは、気軽に悩みを相談できる人が職場にいなかったことだ。与えられた仕事をうまく進められなくなっている。同じところをぐるぐる回って能率が上がらない。そんな状態に自分では気づいていても、限界の直前まで周囲の人には悟られないようにしてしまう。すでに、その段階でうつ状態一歩手前の脳疲労の状態なのだが、とにかく一人でなんとか元の軌道に戻そうとする。
脳疲労の状態になってしまうと、脳が本来のパフォーマンスを発揮することができなくなっている。だから、どんなに一生懸命最善の手を考えようとしても、脳が十分に働いていないので、悪手しか出てこない。こうなるともう脳を休ませるしかない。その状態で一人で何とかしようともがき続けることは、酩酊状態で車を運転して迷路に入り込んでしまい、抜け出すために正しいルートを探すようなものだ。正しいルートに戻れる可能性は非常に低く、事故を起こすか、立ち往生することが目に見えている。
私の場合、今から思えば、まずは、上司や先輩に相談して、頭がうまく回っていないこと、体の調子が悪いこと、毎晩寝られないこと、を早めに相談して、仕事の負担を軽くしてもらうことが必要だった。しかし、カッコ悪いところを見せられず、結局会社に行けなくなるまで言い出せなかった。最後まで、周囲の人には悟られないようにしてとにかく一人でなんとかしようとした。そして、ある朝、どうしても会社に行けなくなったのである。
これは想像だが、大阪なおみ選手も気軽に悩みを相談できる人が周りにいないのではないだろうか。トップアスリートだからなおのこと、周囲に弱みなど見せられない。今回の彼女の行き当たりばったりな言動を見ると、脳が十分に働いていない状態(脳疲労状態、うつ状態)で、一人で何とかしようともがき続けた結果のように見える。だが、誰かに相談せずに一人で何とかしようとしても、会見拒否宣言とか、せいせいする、とかいった悪手しか出てこない。こうなるともう脳を休ませるしかない。彼女の「少しの間コートを去る(休息する)」という決断は理にかなっている、と私は思う。
うつ未満 。 「大丈夫」と言えない日の相談室 精神科医Tomy (著)

