自分のカイロス(主観的な時間)を再構築する

クロノスとカイロス

ギリシャ語で時間を意味する言葉には2種類の単語があるそうだ。一つはクロノス、もう一つはカイロスだと。クロノスは、通常我々が、時間と聞いて思い浮かべる時間の概念で、過去から現在を経て未来に至る、決して戻ることのない不可逆な時間。言い換えれば客観的な時間の概念だ。対するカイロスは自分の尺度で自由自在に変わる主観的な時間の概念。

よくいわれる「過去と他人は変えられない」とは異国の精神科医が残した有名な言葉だそうだ。ここでいう「変えられない過去」とはクロノス、すなわち客観的な時間の方を指している。起こってしまったことは変えられない、仕方ない、というときに使われる時間の概念だ。

ところが、元外務省職員で作家の佐藤優先生は、著作「50代からの人生戦略」で、過去は解釈で変えられる、とおっしゃっている。クロノスとカイロスの概念も先生のこの著作で知った。もちろん解釈で変えられる過去はカイロスの方だ。

過去の降格をどう乗り越えるか

降格された、という過去は変えられないことは理解している。しかし、働く人にとって降格されたことは決して小さな出来事ではない。

自分の場合、過去の降格は自分の職業人生のうちで消すことが出来るなら消したい出来事のうちのベスト3に入る。理由はとても恥ずかしいから。

降格されたのは今から5年以上も前だが、恥ずかしいので誰にも相談していない、というより相談できなかった。

仕方なく私は、自分が降格されたのは能力が見合わないから、実績が見合わないからだ、と自分を納得させてきた。

カイロスの再構築

ところが、今年の春、私が過去の降格を乗り越えて前に進むために、やむを得ず自分で作ってずっと持っていたカイロスを根底から覆す事件が起きた。

能力が見合わないから、実績が見合わないから降格されたはずの私が「転勤できないか?」と言われたのだ。

ベテランがいない、決算を締められる人がいない、あんたの名前があがっている、転勤できないか、と。もちろん、秒で断った。降格しておいて今更何を言っている。ふざけんな、と怒りがこみ上げてきた。

だが、断ったあともモヤモヤ感が尾を引いた。能力が見合わないから、実績が見合わないから降格されたのであれば、声がかかることはない。ということは、降格された理由は、能力が見合わないから、実績が見合わないからではないということだ。

降格されたのにはまた別の理由がある。そう思うと私はその理由を知りたくて仕方なくなった。

降格されたというクロノスに対応するカイロスを失った今、私は精神の平衡を保てなくなっている。一刻も早く新たなカイロスを再構築しなければならない。そのためには降格の本当の理由を会社に聞くしかない。もう恥ずかしいとは言ってられない。過去の降格に向き合う時期が来たのだ、そう思った。

2ヶ月くらい悩んだ末に、会社に降格事由の開示を求めることにした。降格されたというクロノスに対応するカイロスを再構築するには、なぜ降格されたのか、その理由に正面から向き合うことが避けられないからだ。

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